前野 |
日本人の中に階層の格差と消費の2局化とが出来はじめていると感じていますが、外食マーケットにおいて、今後の日本人における「食」の志向はどう変化していくとお考えでしょうか。 |
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熊谷 |
グローバルダイニングの長谷川さんは20代〜30代をターゲットにしていると思いますが、我々はむしろ40代から上の世代をターゲットにしています。
日本国民は驚くべき貯蓄を持っています。それを自由に使えて元気な年齢層は60代ですね。今は実際の年齢よりかなり若くなています。昔より15歳くらいは若返っている気がします。その元気で経済的に余裕がある層を特にターゲットにしていくつもりです。それと「食」の志向という視点で言えば、今、世界中で日本食ブームが広がっているでしょう。
しかし純粋な日本料理店は海外では少ないと思います。料理のカテゴリーを完全に分ける必要はないでしょう。「寿司はこうでなきゃイケナイ」なんてことはないし、現に「カリフォルニアロール」なんてけっこう旨いですよ。
ニューヨークにあるべトナム料理店やタイ料理店の中には素材の使い方や味付けの仕方に驚かされる店もあります。NOBUさんの店は寿司が出たりしますが、私の店の場合はパンとワインは外しませんから、私の料理スタイルは「洋風の無国籍料理」ということですが、日本人の食の志向も同じ流れだと思います。実感として世界は狭くなっています。インターネットとともに「食」も完全に国境を越えていると思います。したがって、これからの料理はグローバルスタンダードでなければならないということです。 |
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前野 |
熊谷さんの原点はフランス料理だと思いますが、これからの日本のフランス料理はどのように変化していくのでしょうか。 |
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熊谷 |
街のフランス料理店はいい店が増えています。日本のフランス料理は当初、価格戦略を間違えた部分がありました。
今は出店状況が追い風となり、一流店にいた2番手3番手のコックが独立して、価格的にもリーズナブルで味もいい店がたくさんあります。 |
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前野 |
その反面、都内のホテルでもフレンチのメインダイニングを閉めるというケースもありますが、現在の東京という外食市場についてどう思われていますか。 |
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熊谷 |
それはしっかりとしたコンセプトが欠如していた事と、中身の問題だと思いますね。魅力のない店は淘汰されていくのは当然です。東京の中心、それも銀座界隈で商売にならなければ日本国中どこへ行っても商売にならいないと思います。
私がキハチを開いた時にはとにかく名物を作ろうと考えました。人が腹が減った時にまず頭に浮かぶ物を売り物にしないとお客様を集め続けるのはむずかしいのです。ホテルの場合、労働基準法がネックになっている部分もありますが、値段に見合うクォリティーと技術が伴えば日本のフランス料理はこれからも発展していくと思います。
それと、東京自体の食のレべルは極めて高くなっています。ラーメンなどのカテゴリーからフランス料理まで、世界中にこれだけレベルの高いレストランがたくさん揃っている都市は他にありません。それだけ消費者の嗜好も向上していると言えるでしょう。ただ食文化とういう点ではまだまだな部分はありますが、東京という食のマーケットは今後も大きな可能性を持っていると思います。 |